放射温度計とは?
“温度を測る” 体温 気温 お湯の温度 室内温度 etc.
日頃、私たちはさまざまなところで温度を測ったり、計測された温度値を目にしています。では、温度とはどのように測られているのでしょうか?
まず、温度とは一体どんなものでしょう?
温度とは物体中の分子や原子の平均運動エネルギーに比例した量を示したものです。つまり温度は運動エネルギーの強さのひとつで、エネルギーが強ければ温度が高く、エネルギーが弱ければ温度が低いとなります。
では、温度はどのように計測されているのでしょうか?
温度の計測は、計測対象である物体から温度センサへの熱の移動によって行なわれます。熱の移動には、①熱伝導②熱放射③対流の3現象があります。
まず、①熱伝導は、高温物体から低温物体への振動エネルギーの移動のことです。気温を測る「寒暖計」、体温を測る「体温計」などは、周りの空気温度、体温が温度計に伝導し温度計と同温度になることにより温度を読み取ることができます。温度センサと呼ばれる熱電対などの接触式の温度計はこの熱伝導を利用して温度を測定しています。
②熱放射は高温物体から低温物体への電磁波の移動。その熱放射を利用した温度計測が放射温度計で、「耳式体温計」の様に、耳の内部から出る熱エネルギーをとらえ非接触で温度を測っています。
残る③対流は、空間的温度分布の上での物体自体の移動。対流は計測対象と温度センサの間に静止の関係が成立しにくいため温度計測には、利用されず、前述の熱伝導と熱放射が多く利用されています。
熱放射(赤外線)
熱放射は紫外線~可視光線~赤外線の領域(図1)にまたがっています。熱放射の法則性については、プランクによって定式化(プランクの放射則)されています。
下の図(図2)から、第1に物体の温度が高くなると、物体から発散する熱放射エネルギーが強くなること、第2に物体の温度が高くなると、熱放射エネルギーの波長分布が短波長側にずれていくことがわかります。
なぜ放射温度計が有用なのか?
- 高速測温が可能
熱伝導を利用する温度計測は、計測対象物と温度センサである物体の接触により熱伝導が生じ、センサである物体の温度が対象である物体の温度と同一になったとき、センサである物体が示す諸性質の変化を捉えることによって温度を求めるという手法ですが、熱的容量の関係で同一温度になるには、一定の時間を要します。 これに対し、放射温度計は熱放射が光速で伝播することから、高速での温度測定が可能になります。 - 非接触測温が可能
非接触測温の利点については、「遠隔測定」と「熱じょう乱を起こさない測定」が挙げられます。
「遠隔測定」には、例えば雲の温度を地上から測定するなどの〈遠距離測定〉や、炉内の温度を窓越しに測定するなどの〈隔離測定〉や、〈移動物体測定〉または、熱伝導を利用する温度計ではセンサ部が溶融してしまうような〈高温物体測定〉があります。
一方「熱じょう乱を起こさない測定」とは、熱伝導を利用する温度計では、測定対象にセンサ部が接触することで測定対象の温度変化があり(熱じょう乱を起こす測定)、正確な測定ができないことがあるのに対し、放射温度計では、測定対象の温度を変化させることなく測定できます。そのため、フイルムなどの〈小熱容量物体測定〉や金属などの〈表面温度測定〉に効果があります。
放射率
放射率は、物体からの熱放射の出方の割合で完全放射体に対する比率です。最も多く放射する理想物体を放射率が1で”完全放射体”または”黒体”と呼びます。自らはまったく放射せず周囲からの熱放射を完全に反射する物体の放射率は0で鏡面体と呼びます。一般の物体の放射率は0と1の間にあります。金属の放射率は測定波長が短いほど高く、長いほど低くなる傾向があります。同一物質でも表面が粗いと放射率は高い傾向を示すなど同じ材質でも表面の性状によってその値が異なります。また”熱放射”でお話したプランクの放射則は物体が黒体であることを前提にしています。放射温度計の分類
- エネルギー強度形
エネルギー強度形のうち全波長域での積分値から温度を求めるタイプを”全放射温度計”(エネルギーが熱力学温度の4乗に比例するタイプ)と呼びます。実際には全波長域を計測するのは検出素子や光学材料の波長選択性などの制約から難しい面があるため、ある程度大気の窓を利用するなど計測上有利な測定波長を限定することになり、これを”広帯域放射温度計”と呼びます。 また、エネルギー強度形のうち単一波長における放射エネルギー強度から温度を求めるタイプを”単色温度計”と呼び、比較的狭い波長域における放射エネルギー強度から温度を求めるタイプを”狭帯域放射温度計”と呼びます。 - 波長分布形
「波長分布形」のなかでも、波長分布を捉えるため2つの波長における放射エネルギーを計測し比率から温度を測定するタイプを”2色温度計”と呼びます。
放射温度計の構造
放射温度計は、光を把握する”集光系”、把握された光を電気信号に変換する”光電変換系”、変換された電気信号を温度に対応した信号として出力する”電気系”の3つの要素から構成されています。固定焦点型・可動焦点型
放射温度計と測定対象との距離にあわせレンズのピントあわせを行うものを可動焦点型、ピントあわせの必要のないものを固定焦点型といいます。
測定対象物の大きさと距離
放射温度計と測定対象物間の距離と測定対象物の大きさを確認して機種の選定を行います。測定径の1.5倍以上が測定対象物の大きさとの関係の目安です。可動焦点形の放射温度計では、測定距離/測定径を距離係数と呼び、10mmの大きさを1000mmの距離で測定したいときには距離係数100の放射温度計を選択します。 距離係数は50、100、200、300などが用意されています。標的サイズは最小2mmくらいまでで、さらに小さくしたい場合は接写レンズを使用する方法もあります。 固定焦点形の放射温度計では標的サイズと距離の関係図から形式を選択します。検出素子
集光系(レンズ、ミラー、光ファイバ)で把捉された光を電気信号に変換するのが”光電変換系”です。このデバイスを”検出素子”と呼びます。検出素子には光の信号により直接エレメントの電気的な性質が変化することを利用する光電型と、光の信号をいったん熱として受け止め、その熱的な変化を利用する熱電型があります。分類 | 原理 | 波長特性 | 応答性 | 検出素子代表例 |
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熱電型 | 光→熱→電気 | 平坦形 | 遅い | 焦電素子(PE)、サーモパイル |
光電型 | 光→電気 | 山形 | 速い | PbSe、PbS、Ge、MCT、InGaAs、Si |
レンズ一体形と光ファイバ形
放射温度計は、通常熱放射を捉える集光レンズ(集光系)が本体(光電変換系+電気系)と一体になっていますが、集光レンズが本体と分離しその間を光ファイバでつないでいる光ファイバ形のものも用意されています。光ファイバ形は、先端が小形にでき、光路がフレキシブルに曲げられ、電磁誘導の影響を受けにくい防爆雰囲気での使用が可能、などの特長があります。視野欠け
放射温度計の測定光路に遮蔽物が入ると熱放射エネルギーが減少し指示誤差を招きます。これを視野欠けと呼びます。